【マッチレビュー】ウェストハム対アーセナル~大事なのは入り方
プレミアリーグ第29節ウェストハム対アーセナルのロンドンダービー。
ハマーズ(ウェストハムの愛称)のホーム、ロンドンスタジアムで行われる1戦です。
試合開始前の時点で5位に位置し、CL出場権も狙える位置につけるハマーズに対して、10位につけるアーセナル、対戦成績はアーセナルが圧倒的優位ですが立場は普段と真逆の状況下で迎えております。
ウェストハム3-3アーセナル
もくじ
両チームのスタメン
前節のマン・ユナイテッド戦は負傷で欠場したリンガードがスタメン復帰、さらにはベン・ジョンソンに代わりベンラーマも今節ではスタメン出場をしています。
そして、システムも3-1-4-2から4-2-3-1に変更してきました。
1st legで突破をほぼ手中に収めていたこともあり2nd legでは控え中心のメンバーでしたが、このハマーズ戦には主力も投入、ELからは6人を変更してきました。
スパーズ戦で負傷しHTで交代、オリンピアコスとの2nd legも欠場していたサカはここで復帰を果たします。
また、チェンバースはバーンリー戦以来のスタメン出場となっていますね。
両WGが普段と逆の位置でのスタートですが、予想としてはこれが狙いかと思われます。
両チームの二次配置
アーセナルのボール保持時
序盤に、ふわっと試合に入り立て続けに失点、そうこうしているうちにWGの位置は左右を入れ替えて普段通りになっていました。
基本的なボール保持の型は普段通りですが、オーバメヤンはスミスロウと比較してライン間でパスを引き出して周りを生かす動きは得意ではありません。
そのため、この試合では消えている時間が長かったという印象になります。
一方、輝きを放ったのはウーデゴールとラカゼットです。
この2人がライン間で最終ラインやトーマスからの縦パスの受け手になり、ウェストハムの4-4-1のブロックを切り崩していきました。
特に、3点目を取られてからはウェストハムの守備の緩さも目立つようになり、より一層、ライン間を使えるようになりました。
ウェストハムのボール保持時
ウェストハムはボール保持時はライスが最終ラインに降りてボールを引き出す時以外は4-2-3-1のままという印象です。
ただ、両WGはハーフスペースに侵入したりというわけではなく大外にいることが多かったですね。
そのため、ライン間は基本的にアントニオが下りてきてパスを引き出すか、リンガードにゆだねられる形になっていました。
リンガードは水を得た魚のように生き生きとプレーしており、かなりの脅威でした。
アーセナルの守備は試合開始直後はボールに対しても人に対しても寄せ方が緩く、配置以前の問題でしたが、3失点してからは4-4-2で前から圧力を強め、ウェストハムのボール保持に対してゆとりを与えなくなり、次第にアーセナルの時間が増えていきました。
試合の入りって大事
先制点は15分に生まれました。
アントニオが下りてきてディオプからの縦パスを受けてレイオフでベンラーマに落とすとベンラーマから素早いリターン。
アントニオがそれを受けてドリブルで深い位置まで持ち上がるとアーセナルの守備陣は慌てて帰陣すると、戻り切った手前のスペースにマイナスの折り返しを入れてリンガードがこれを決めて先制ゴール。
そもそも、アントニオに縦パスが入る時点でもっと強めに寄せたかったシーンですね。
2点目はその直後、アントニオが倒されてファールを取られたところからリンガードのクイックリスタートにぼーうぇが反応して抜け出してニアを打ち抜きゴール。
アーセナル側は審判に注意が向き誰一人としてボールを見ていませんでした。
これはもう「なにしてんねん」としか言えない代物です。
3点目はレノからティアニーへのパスをティアニーがダイレクトでつなごうとしてパスがずれた所をライスが回収し、ツォウファルのクロスをアントニオがルイスに競り勝ってのヘッド、最後はソーチェクが足で合わせてゴール。
ティアニーのミスもですが、ツォウファルがフリーでクロスを入れてましたが、オーバメヤンもう少しプレスバック頑張れなかったのかなという印象です。
アントニオの守備タスク
ウェストハムのブロックを4-1と表記したのには理由があります。
1トップに入ったアントニオですが、ウェストハムが前からプレスをかける際にはリンガードが最終ラインにプレッシャーをかけるのと入れ替わるようにトップ下の位置に入り、中盤へのコースを抑える最小限の運動量の守備しかしていませんでした。
しかし、自陣に押し込まれるとリンガードとの立ち位置は再び入れ替わり1トップの位置に戻りますが、プレスバックの動きを見せる回数は少なかったです。
自陣に押し込まれたとき、画面から見切れていることもしばしばありました。
カウンターに移行できれば、彼1人で時間を作り、2列目の選手を生かすこともできますし、1人で完結させることも可能な選手です。
ですが、4-4-1で出どころが抑えられず、クリアしてもアーセナルがボールを拾い、二次攻撃三次攻撃につなげるため、カウンターに移行できる回数も少なかったです。
アントニオの負担軽減はカウンター時にパワーを残しておくため、もしくは負荷がかかりすぎて負傷することを防ぐ狙いがあるのではと思います。
チェンバースの右SBとしての長所と改善点
長所:クロスのセンスと精度
チェンバースの精度としては真っ先に上がるでしょう。
ベッカムを彷彿とさせるような精度(ベッカムをリアルタイムで見たことないけど)のクロスでオウンゴール2発を誘発させたクロスを見事なものでした。
アーセナルの1点目はウーデゴールがドリブルで持ち上がる横を駆け上がってパスを引き出し、マイナス気味の速いクロスを入れてラカゼットがシュート、それがソーチェクに当たり記録はオウンゴールになりましたが、実質ラカゼットのゴールとチェンバースのアシストと言っていいでしょう。
スピードのあるクロスをワンタッチでマイナスのスペースに通したのは見事でした。
2点目はラカゼットのクイックリスタートからでした。
ラカゼットがトーマスに出し、トーマスのパスをサカがレイオフでウーデゴールにつなぎ、横に持ち運んでからの大外を駆け上がるチェンバースへのパス、それをダイレクトで折り返したチェンバースのクロスがドーソンに当たりオウンゴールになりました。
このゴールの一連の流れは、サカのプレーも素晴らしかったです。
ウーデゴールへのレイオフもですが、その後クレスウェルをピン留めしたのは見事でした。
サカがレイオフの後の走り込みでクレスウェルを内側にとどめたことでチェンバースがフリーでクロスを上げることができましたね。
そして、チェンバースのクロス。
DF陣が戻りながらの対応になるDF-GK間に速いボールをダイレクトで入れたことでオウンゴールを誘発、仮にドーソンが戻り切れてなかった場合オーバメヤンが流し込めていたでしょう。
マイナスに折り返した1点目、DF-GK間に入れた2点目、どちらもクロスの質以上にチョイスが素晴らしいものでした。
長所:ゾーン3でのランニング
オウンゴールを誘発した2本のクロス以外は決定機にはつながりませんでしたが、どれも得点の匂いを感じるものになっていました。
それはなぜか?
クロスのコースもですが、DF-GK間に通すためには相手が戻り切る前にクロスを上げる必要があります。
そして、チェンバースは抜群のタイミングで大外を駆け上がりダイレクトでクロスを入れており、このランニングのタイミングの良さとダイレクトでクロスを入れている点がクロスの精度と同じくらいチェンバースのクロスから得点の匂いを感じさせる要因だと考えられます。
思えば、エメリ政権で右SBを務めた際も大外駆け上がっていいタイミングでエリア内まで切り込むシーンとかもありましたし、これはチェンバースの強みと言えるでしょう。
改善点:ゾーン2でのパスの受け方
ゾーン3(ファイナルサード)での判断は良い一方、ゾーン2での判断には改善の余地があります。
ビルドアップで前進する際に、相手SHの前で受ける頻度が多かったチェンバース。
ウェストハムの守備意識がそれほど高くなかったため、大事には至りませんでしたが、守備意識が高く、プレスのかけ方が徹底されたチームの場合、ここで受けると前へのパスコースはSHに対応され、CBへの戻しのコースを前線の選手に狙われやすくなりがちです。
SHの手前ではなく、SHとSBの中間ポジションでCBからのパスを引き出せるようになるとよりよくなるでしょう。
ここに位置取ることができれば、CBからのパスが通るとハーフスペースに侵入してくるサカやウーデゴールへのパスコースを確保できますし、SBとSHはどちらがチェンバースを、どちらがハーフスペースを抑えるかで迷いが生じることで、守備ブロックに歪みが生まれます。
逆に、SBの横まで出て行ってしまうとCBからのパスコースが引けなくなることに加えてSBがそのままつけばよくなり、守備側もマークが整理されて守りやすくなるため、SB-SHの中間を取ることが重要でしょう。
スミスロウが目立たなかったわけ
スミスロウを投入して布陣は4-1-2-3のような配置に変化しました。
右はWGのぺぺ、右IHのウーデゴール、右SBのチェンバースで循環するように大外とハーフスペースを取ることができます。
一方、左はSBのティアニーが右のチェンバースよりも高い位置でのプレーを得意とするため、大外はティアニー、ハーフスペースはWGの選手で固定化されがちです。
そして、この日のスミスロウはジャカとの交代でピッチに立っています。
ジャカがいないことでティアニーの背後に降りてビルドアップをする選手がいないことで、スミスロウはIHから低い位置に降りてパスを引き出して持ち上がる動きが目立ちました。
そのため、ライン間で動きながら縦パスを引き出すという最も得意なシーンを作ることができず、この試合では今一つ輝けませんでした。
ドリブルで運びながら出し先を探すというのはどちらかというとウーデゴールの得意とするタスクなので左右のIHを入れ替えると機能するかもしれません。
まとめ
試合開始から30分は間違いなく今季ワーストのできでした。
そこから引き分けに持ち込めたと考えれば聞こえはいいですが、勝たなければいけない試合でした。
ELに軸足を置くのは当然ですが、だからと言ってリーグ戦の順位がどうなってもいい訳ではありませんし、最低限EL圏内を目指す上ではこの試合は勝ち点3が必須の試合でした。
しかし、収穫もあったのでこれは次につなげてほしいところです。
リヴァプール戦に向けて
リヴァプール戦の予想スタメンです。
何人か代表に選出されてる選手もいて代表ウィーク明けとはいえ、この試合の次は中3日でブレイズ(シェフィールド・Uの愛称)戦でその後にELでスラヴィア・プラハとの1戦を迎えることを考えたら可能な限りのベストメンバーで臨んでくることが予想されます。
後は、彼らが代表ウィークでケガをしないことを祈るばかりです。
満身創痍の王者リヴァプールですが、一時期と比べたら持ち直してきていますし、ぼろぼろの状態でも油断できる相手ではありません。
しかし、同時に勝ち目のない相手でもありません。
この代表ウィークを生かして課題を修正して次節を迎えてほしいですね。
スパスィーバ
エジルに見惚れてグーナーになった人。18/19シーズンから戦術ブログを開設してリーグ戦全試合のマッチレビューを投稿している戦術系グーナーです。