【マッチレビュー】クリスタル・パレス対アーセナル「想定通りと想定外」
クリスタル・パレス0-2アーセナル
もくじ
試合のハイライト
両チームのスタメン
クリスタル・パレスは右SBがをウォードからクラインになった以外は直近のプレシーズンマッチと同じメンバー、アーセナルはスタメン全員が直近のプレシーズンマッチと同じメンバーで挑んできた。
クリスタル・パレスは昨シーズンチェルシーからのローンで加入し、ハイプレスの先導役を一手に引き受けていたキャラガーがチェルシーに帰還したことでその穴をどう埋めるかというところでエゼがどれだけやれるかが注目だ。
アーセナルはプレシーズンの勢いそのままに新加入選手がどれだけのインパクトを残せるかが注目ポイントだろう。
ビルドアップの上手く行く時行かない時
この試合、左サイドのビルドアップはなかなかに不安定だった。
綺麗につながる時もあればパスコースが無く可能性の薄い裏への1本を狙うしかない場面もあった。
常に安定して繋げそうだった右サイドとは大きな違いだ。
左サイドのビルドアップが上手く行かない時の共通点は内に寄りすぎることでマルティネッリへのパスコースがつながらなくなっていたことだ。
目立っていたのはジンチェンコのポジショニング。
ティアニーの偽SBに比べて自由に動き、トーマスの脇まで侵入していく場面が多く見られ、結果としてCBとマルティネッリの間をつなぐ選手がいなくなり、強引に縦に通すしか選択肢がなくなっていた。
次に、ガブリエウのポジショニングも気になった。
右のサリバが安定してペナルティエリアの幅付近まで開いてボールを持つことが多かったのに対して、ガブリエウはさらに内側に絞ってボールを受けるため、ジンチェンコが中に入ったことで繋がりにくくなったマルティネッリへのパスコースの繋がりにくさに拍車をかけていた。
しかし、90分を通して機能不全だったわけではなく上手く行くこともあった。
そして、左からのビルドアップが上手く行く時は決まってガブリエウがペナルティエリアの幅付近まで開いていてジンチェンコもCB-WG間をつなぐ立ち位置に立っていた。
こうなると、ジンチェンコ経由やガブリエウから直接マルティネッリへのパスが出せるほか、ライン間からトーマスの近くまで下りてくるジャカへの縦パスも通しやすくなる。
また、この位置まで開くことでパレスのFWの脇をキャリーしてジェズスへの縦パスも狙いやすくなるメリットがある。
また、ジンチェンコがトーマスの脇まで侵入すると必ず上手くいかなくなるわけではない。
ジンチェンコが内側に入る代わりにジャカがCB-WG間をつなぐ役割に回ることでサイドへのパスコースを確保しつつ中央も渋滞しないため、スムーズなビルドアップが可能になる。
そして、この試合のアーセナルに多く見られたのはジンチェンコやジャカがサイドに流れるとマルティネッリはハーフスペースに侵入する動きを見せて縦パスを引き出すことが多かった。
これは縦関係にならないようにすることとサイドの循環による攻撃の加速を促すためのアルテタの仕込みだろう。
前プレスのフェーズ
前プレス時はボールサイドはWGがSB、SBがWGを抑えているところからジェズスの同サイド圧縮をトリガーに1列前に移動してそれぞれCBとSBの位置までプレッシャーに出る。
この時、ボールサイドのボランチはウーデゴールが抑えて逆サイドはWGがボランチとSBを見れるところまで内に絞って対応していた。
前半、ショートパスでの前進を試みるクリスタル・パレスはこの前プレスにかなり苦しめられていた。
しかし、アーセナルが先制したことで前プレスの頻度が下がったこととクリスタル・パレスがロングボール主体の前進に切り替えたことで前進できるようになる。
アーセナルは前プレスで捕まえきれない場合は4-4-2で構えて守る形に切り替える。
こうなるとジェズスとウーデゴールは1人がアンカーを抑えもう1人がCBへのプレスに行くが、あくまでもコースを制限する程度のものだった。
後半に苦戦を強いられたが、これはこの守備の形に対してクリスタル・パレスの新加入CBアンデルセンの配球力の高さと前線のロングフィードを収める力の高さゆえだ。
しかし、同じようにロングフィードでの展開を許した昨シーズンのニューカッスル戦と違った点は放り込まれることを分かった上である程度ブロックを構えて受けられたことで広いスペースで後手に回るのではなく前を向かせない守備や1対2での対応を徹底できたことだ。
そのため、ジンチェンコがシンプルに振り切られる場面を除けば想定内の対応をできた。
上々のデビュー
サリバにとっては最高のアーセナル公式戦デビューとなった。
持ち前のスピードと首振りから来る予測力を活かしてハイプレスの背後のスペースをしっかりカバーし、タックルで相手のチャンスも刈り取ってきた。
また、ビルドアップ時も自分で運べる、縦パスを出せるというのももちろんだが、安定したポジショニングは右サイドの前進の安定感に大きく寄与している。
ジェズスにとっては最高とは言い切れないが、上々の公式戦デビューとなった。
縦パスを受けてからの仕掛けを中心にゴール前にも顔を出し得点の匂いのするプレーを連発、さらにはチェイシングから決定機も演出した。
この試合、後ろの配置が完璧ではない中でジェズスのボールを引き出す巧さ、キープ力と仕掛けの巧さのおかげで多少強引な縦パスも繋がっていたことは今日のアーセナルにとっては大きかっただろう。
上々のデビューを飾った2人とは対照的にジンチェンコは少し難しいデビューとなっただろう。
ファイナルサードでのアイディアやパス回しの安定感、守備では前プレスの連動では良さを見せた一方でポジショニングの自由さはビルドアップに不安定をもたらし、対人守備の脆さは相手の付け入る隙になってしまった。
ポジショニングはアルテタが意図的に自由にやらせている可能性もあるため何試合かしたら修正する可能性もあるが、対人守備については今後も課題となるだろう。
昨シーズン、前プレスの連動など運動量の面での強度は上昇したように感じるが、対人守備はそこまでの上積みは望めず今シーズンもそこが引き継がれている模様だ。
安定感と守備力のティアニーとファイナルサードでのアイディアのジンチェンコで今後は使い分けというのが現実的な路線だろうか。
おわりに
決して完ぺきな内容ではないが、だからこそ勝ち切る意義があった。
昨シーズンから武器になっているセットプレーで先制し、後半にサカの積極的な仕掛けからオウンゴールを誘発して2点目を決めて逃げ切ることに成功。
クリーンシートを達成できたことはサリバにとって大きな自信になっただろう。
幸いにも、ここからしばらくは強豪との対戦もないため、その間にジンチェンコとガブリエウのポジショニングの修正でビルドアップの安定、そしてジェズスのゴール量産を見たいものだ。
エジルに見惚れてグーナーになった人。18/19シーズンから戦術ブログを開設してリーグ戦全試合のマッチレビューを投稿している戦術系グーナーです。