【マッチレビュー】アーセナル対マンチェスター・ユナイテッド「ポゼッションに必要なのは守備の構築」
アーセナル3-2マンチェスター・ユナイテッド
もくじ
両チームのスタメン

アーセナルは前節ノースロンドン・ダービーを2-0で快勝しその勢いのままスタメン変更0人でホームにユナイテッドを迎え撃つ。
対するユナイテッドはミッドウィークに7節の延期分のパレス戦を1-1の引き分けで終え、そこからはスタメン変更1人で挑んできた。
パレス戦でイエローを貰い累積警告で出場停止のカゼミロに代わりマクトミネイが起用されている。
また、ユナイテッドはパレス戦の前にはマンチェスター・ダービーを戦い疑惑の判定に助けられながらも勝利を収めた。
ちなみに、それぞれ敗れたスパーズとシティはミッドウィークに対戦しシティが2点先行されたところからの逆転勝ちを収めている。
強気のアーセナルの守備

試合開始1プレー目でサカが外切りのコースカットプレスでリサマルに圧をかけると中央に顔を出したマクトミネイにジャカがプレスをかけ、逆サイドのショーまで寄せることでアーセナルのこの試合のスタンスを明らかにした。
もともと今シーズンのアーセナルは試合の序盤に強度を高めて主導権を握り、理想は先制点を奪う、それが出来なくても自分たちの時間を継続する形で多くの試合で先制をしてきた。
この試合は強度の高め方においていつも以上のものを見せてきた。
サカがリサマルにまでプレッシャーに行き、ホワイトが1列スライドしてショーにプレスをかけ、他の4バックがスライドする形で前がかりになることに加えて、トーマスもいつもなら中央で自分のマーカーを抑えて待機しながらアバウトなボールの回収に当たるがこの試合では前向きにサイドまで潰しに行く動きを見せていた。
それに対してユナイテッドは左サイドに押し込められると逆サイドに振り直す策を持ち合わせておらず、アーセナルのボール保持との大きな差になっていた。
ユナイテッドに感じた恐怖とアーセナルのボール保持

この試合のジンチェンコはいつにも増して内側に絞ってプレー、ヒートマップは左IHか左に流れるトップ下のようなものになっていた。
ジンチェンコが内に絞ることでガブリエウとマルティネッリのパスコースがつながらないことが課題だったが、この試合のガブリエウはジンチェンコが内側に絞るのに合わせて開いた位置でボールを持つことでマルティネッリとのパスコースを確保し、ジンチェンコの動きを有効活用していた。
また、ガブリエウが開くのが間に合わない時はジャカがガブリエウとマルティネッリの間をつなぐことで選択肢を確保していた。
この辺りの気の利き方もジャカは流石である。
ジンチェンコは内に絞った所でアントニーや後ろからプレッシャーをかけるマクトミネイを引き付けてレイオフで味方に時間とスペースを確保した状態でパスを供給していた。
そして、ライン間への侵入も積極的に行い、そこでもジンチェンコがボールを持ち、ユナイテッドの守備を引き付けることでハーフスペースのジャカが浮くシーンもあった。
マルティネッリはここ数試合と同様に単騎の突破の回数が多かったが、対人守備の強さは折り紙付きのワン=ビサカが相手だったこともあり、かなり苦戦を強いられていたが、相手のDFラインを押し下げるという点では一定の役割は果たせていた印象だ。

左からのビルドアップでジンチェンコが躍動していたように右からのビルドアップではウーデゴールが躍動していた。
ユナイテッドの前からの守備はサイドに追い詰めたい意図もあったが、アーセナルの右サイドにはそこから逃れるための術があった。
ウーデゴールがサリバからの縦パスに対してエリクセンの死角から顔を出し、ブライトンさながらのパスコースに点で待ち合わせをする動きからダイレクトで逆サイドのジンチェンコに展開、右サイドに寄って手薄な左サイドのユナイテッドの守備をジンチェンコが一気に前進することで再現性高く敵陣に侵入していた。
ジンチェンコのマークをするべきアントニーの守備意識が低かったという見方もあるが、アントニーはアントニーで同サイド圧縮のサポートで内に寄っていて構造的にジンチェンコをフリーにせざるを得なかったように見える。
もちろん、展開された後の緩さはアントニーの問題なのでこれはノーコメントで。
また、サカはショーに対して明確に質的優位を確保し、ショーは置き去りにされないまでもズルズルと下がるので手いっぱいだった。
サカの驚愕のミドルシュートのシーンはショーも食い下がってはいたもののあれが精いっぱいだったことが何よりサカとショーの対面でサカが優位に立っていた証明になるだろう。
ユナイテッドの脅威は何といってもラッシュフォードの存在だ。
ユナイテッドの先制ゴールは高い位置でトーマスがパスをひっかけた所からのショートカウンターからラッシュフォードがトーマスを置き去りにし見事なミドルシュートを決めた。
その後もカウンターからラッシュフォードの突破は脅威であり続けた。
後半はホワイトから冨安に代わり、冨安は上手く対処していたが、それでもラッシュフォードはフィニッシュにまで持ち込むシーンを作っている。
ポゼッションで押し込んだ状態で複数の選択肢を持った状態でのプレーは苦手なラッシュフォードだが、カウンターから自分のオンザボールの質で突破してフィニッシュまでいけばいいカウンターの場面が得意なラッシュフォードがシティ戦やアーセナル戦に強いのは納得だ。
また、ユナイテッドはアーセナル同様に切り替えの守備の強度が高いだけでなく、ネガトラの瞬間にパスコースを抑える立ち位置を確保し、持続的にプレッシングを行うため、奪った後にボールを落ち着かせられないシーンも多くあった。
ネガトラの瞬間に選択肢を奪い、持続的に敵陣でプレスをかけて奪い返しにかかるアーセナルと対戦するチームはきっとこの日のアーセナルに似た気分を味わっていたのだろう。
この試合のパフォーマンスにカゼミロが加わればELプレーオフのバルサとの対戦はユナイテッドが勝つと思う。
報われたエンケティアのオフザボール
前節ノースロンドン・ダービーでもお手本のような死角を突くオフザボールからフィニッシュに絡むもノーゴールに終わったエンケティアだが、この試合はワン=ビサカの背後から飛び出してジャカのクロスに頭で合わせて同点ゴールを決めると試合終了間際にウーデゴールのシュートのこぼれ球を押し込んで決勝ゴールを決めた。
エンケティアの決勝ゴールのシーンはトロサールがカットインを匂わせる仕掛けでユナイテッドのDFの意識を集中させてから外を上がるフリーのジンチェンコを使いDFラインを押し下げてジンチェンコのマイナスへのクロスにウーデゴールが合わせてそのこぼれをエンケティアが押し込んだ形になったが、トロサールからジンチェンコとジンチェンコからウーデゴールの2本のパスでユナイテッドのDFに対して視野の切り替えを強要するアーセナルの得意のサイド攻撃だった。
エンケティアのオフザボールはゴールシーンだけでなく、崩しの局面でも膨らみながら抜け出す動きでDFを押し下げマルティネッリの仕掛けのスペースを確保したり、90分を通して完璧で、教科書に載せたいくらいだ。
おわりに
トロサールも決勝ゴールの起点になり、その後は持ち前の足元のスキルを披露しアーセナルの強度の高い試合と一体感を味わって勝利し最高のデビュー戦になった。
これで19試合を終えて勝ち点50…単純計算で勝ち点100ペースだが、まだシティ戦を2試合未消化でシティよりも消化試合数1試合少ない状態で勝ち点5差の首位なのでまだ予断は許さないというハイレベルな争いとなっている。
次の試合はFA杯4回戦のシティ戦だが、おそらくある程度のターンオーバーが予想される。
その後リーグ戦エヴァートン戦とブレントフォード戦を挟み7節の延期分のエミレーツで行われるシティ戦が待っている。
優勝を目指す上でシティにシーズンダブルを食らうと少し苦しくなるので、ホームで勝利してシティとの2試合は1勝1敗が現実的な目標ラインだと考えている。
その上で、ピッチ上の現象的に取りこぼしのリスクがアーセナルよりも高いシティと選手層的に取りこぼしのリスクが高いアーセナル、どちらがいかに取りこぼさないかの勝負になってくるはずだ。
エジルに見惚れてグーナーになった人。18/19シーズンから戦術ブログを開設してリーグ戦全試合のマッチレビューを投稿している戦術系グーナーです。