エルネニーの新たな役割【アーセナル解説】
みなさんこんにちは。今回は前回のマッチレビューから1人の選手に焦点を当てて戦術的な役割やスタッツも使って深堀してみようという記事になっています。
今回はアーセナル対シェフィールド・Uです。
気になる今回ピックアップする選手は…モハメド・エルネニーです。
もくじ
スタッツ
パスの本数は2CBとセバージョスに次ぐチーム4番目の数字でしたが、パス成功率はチームトップを記録。
しかし、ただパス成功率が高いだけでは評価はできません。3節のリバプール戦のエルネニーのパス成功率はアーセナルのフィールドプレイヤーで唯一90%越えを記録、さらに言うとGKのレノのパス成功率は92%でしたがエルネニーはそれを上回る94%を記録しました。
そんなエルネニーのリバプール戦でのパフォーマンスが良かったかと言われればNoです。
パス成功率はそれだけでは無難なパスのみを選択しているという評価を下されてしまいます。リバプール戦のエルネニーはまさにその典型的な例でした。
パス成功率を評価するためにはパスの内容も同時に目を向けてみる必要があります。
こちらがリバプール戦とブレイズ戦のパスマップです。
リバプール戦と比較してブレイズ戦では局面を変えるサイドチェンジや縦に入れる楔のパスを出すようになりました。
大きなサイドチェンジや楔のパスは有効なパスですが、インターセプトされるリスクやパスがずれるリスクもパスの距離が伸びたりする分増します。そう言ったパスが出せるようになったのはこの後紹介するエルネニーの新たな役割のおかげだと思います。
パスに付きまとうリスクとリターンは基本的に釣り合っているものだと思います。
リバプール戦のパスは近い横パスやバックパスばかりでリスクは低いですが、その分リターンもほとんどありませんでした。一方、ブレイズ戦のパスはリスクがありますがその分リターンもあります。
前節リバプール戦と今節のブレイズ戦のヒートマップを比較すると、リバプール戦では中央にとどまり最終ラインに降りてきたり前線まで行ったりという動きはありませんでした。
それが、ブレイズ戦では最終ラインまで下りてきたり高い位置まで顔を出しています。
高い位置まで行けるというのは試合展開にも左右されるところもありますが、最終ラインまで下りてくるのは明確に与えられたタスクだと思います。
エルネニーの新たな役割
エルネニーがこの試合でアルテタから託されたのはアルテタが最初にジャカに託したのと同じ役割で、高い位置を取るSBの裏に降りてビルドアップに加わるいわゆるクロースロール(クロースが良くやるからクロースロール)です。
なぜジャカを引き合いに出したかというとどちらも器用な選手ではないところをアルテタがタスクを明確にしたことで輝きを取り戻したからです。(誤解しないでほしいのは2人共いい選手ですが選手の特性としての話です。)
2人とも何でもできるわけではないですしデ・ヨングやセバージョスのように後ろ向きでパスを受けてひらりとかわしてボールを進めるような芸当はできませんが前を向いてパスを受けてからならば、キック精度を生かして長いパスを出すこともできます。
ちなみにSofascoreではジャカもエルネニーも長所としてロングパスが挙げられています。
相手の2トップに対して3バックを形成することで数的優位を確保できます。
数的優位を作ることの重要性は下記の記事でよろしければ
今回の最終ラインでの数的優位は相手が2トップですのでマンマーク気味につけば1人浮きますし、パスコースを抑えるカバーシャドウで寄せてきても最終ラインの前にいるセバージョスも合わせるとダイヤモンドを形成できるので1人の選手に対して2本のパスコースを引くことができ数的優位の状態で奪われるリスクがかなり減ります。
図のように1人から2本のパスコースが引ける状況ならばカバーシャドウで1本のコースを切られても残ったパスコースに出せばプレスをかいくぐることができます。
ですが、後ろからより押し上げてチーム全体で前から人を捕まえる守備をしてくるチーム相手では空いてる選手を後ろから捕まえたりもしますが、ブレイズはそこまで積極的に前からくるチームではありませんでした。
そして、このひし形の形成と1人から2本のパスコースが引ける状況は最終ラインからのビルドアップだけではなくピッチ上の様々なところでもビルドアップが上手くいく秘訣だと思います。
さて、アーセナルの2点目は先ほど書いた1人から2本のパスコースが引けることが得点につながったシーンだと思います。
エルネニーがウィリアンからパスを受けて前を向いたとき、ベジェリンとペペへの2本のパスコースがありました。
フリックがベジェリンへのコースを消しながら寄せてきたのでエルネニーはペペにパスを出します。ペペが受けた所でスティーブンスが寄せてきたのでベジェリンにつなぐとスティーブンスの裏へと走りだします。
ベジェリンが受けた所でロビンソンも前に出てきたのでベジェリンがワンツーのような形でペペに戻すとDF2人が前に出たことでできたスペースでペペが受けて一気にエリア内まで持ち込み、最後はイーガンも戻ってきてコースのないところをコントロールショットで見事に決めました。
このシーンのブレイズの守備は結局後手に回り続けた結果崩された形でした。
守備のリスク管理
また、守備時も相手の2トップに対して一時的に3人で対応することも可能でした。
この試合のブレイズはバークが交代するまでの時間はバークにロングボールを当てて起点にするロングカウンターを攻めの軸にしていて、この形は脅威でした。
仮に普段の5-2-3、4-3-3可変の場合は3バックの左のティアニーが高い位置を取ってるため、ロングカウンターの際は残りの2CBで広いスペースをケアしなければならなくなります。
(これはティアニーの守備意識とかではなく、シンプルに人はボールより早くは動けませんから)
その点でもチームのピッチ上のバランス改善につながったと言えます。
まとめ
・攻撃時の左編重の改善
エルネニーのクロースロールによって右からも攻撃を作れるようになったことでここ最近の左からの崩しに比べて右からの崩しが物足りないという課題が改善されたように感じました。
・クロースロールの恩恵
攻撃時は3バック化によりパスコースを増やして、守備時はリスク管理もできるということでかなり理にかなった戦術です。
さて、ここまで、エルネニーの評価について書いてきました。エルネニーに関しては課されたタスクはこなせるけどそれだけでそれ以上でもそれ以下でもないというのが個人的評価でしたが、この試合でのエルネニーは課されたタスクをこなし、チームにプラスで自分の強みを還元できるようになったというのはかなり大きいと思います。
そして、やはり見逃せないのはアルテタの手腕です。昨シーズンにコラシナツ左CBをやってすぐにやめたときもですが、的確なトライアンドエラーができるというのは監督として一つの才能だと思います。
今回もここまでの試合でエルネニーは中盤でボールを受けていましたが、それだとエルネニーの強みが出ないのでエルネニーの強みが出るように最終ラインからのビルドアップに組み込みました。
新加入のトーマスもすでにスーパーな選手ですが、多少なり欠点はあるのでそこを考慮したうえでアルテタなら最適解を導き出せるでしょう。
自分の哲学を押し通してうまくいってないことを変えようとしない監督も世の中にはたくさんいますからね…
ここまで読んでいただきありがとうございました。
スパスィーバ
エジルに見惚れてグーナーになった人。18/19シーズンから戦術ブログを開設してリーグ戦全試合のマッチレビューを投稿している戦術系グーナーです。