【マッチレビュー】アーセナル対マンチェスター・ユナイテッド「システマチックな明暗」
もくじ
試合のハイライト
両チームのスタメン
アーセナルは3連敗のあと見事に勝利を収めたチェルシー戦からのスタメン変更は1人となっている。
前節では右SBにホワイトを置き、CBにホールディングを起用していたが、この試合ではホワイトをCBに置き右SBにはセドリックを起用してきた。
ボールを持たれることを想定し、守備から入ったチェルシー戦とは違い、こちらが主導権を握って試合を進めたいという意思の表れだろう。
対するユナイテッドは大敗を喫したリヴァプール戦から5人を入れ替えて、システムも3-4-2-1から4-2-3-1に変更してきた。
こちらもSBの人選が、対人守備が強みのワン=ビサカではなくダロトを右に起用しアレックス・テレスを左SBに起用していることから攻撃的に行きたいことが伺える。
サイドtoサイドの効力
アーセナルの先制点はジャカからの対角線のクロスに対してヴァランとテレスが処理を誤りサカのもとに転がり込み、サカのファーへのシュートはデ・ヘアの好セーブに阻まれるもこぼれ球をタヴァレスが押し込んだものだ。
ミスから生まれた先制点のようにも見えるが、ここに至るまでの過程も素晴らしかった。
右サイドのセドリック、ウーデゴール、サカのトライアングルで敵陣に侵入してからジャカを経由して左サイドから裏を狙うタヴァレスへ展開。
その戻しをジャカがダイレクトで逆サイドのサカに展開し、サカが相手を引き付けてからセドリックに戻して同じように対角線のクロスを狙う。
これは飛距離が足りずクリアされるがこぼれ球を回収して再び左サイドに展開したところから同じようにジャカのクロスがサカに渡った所から生まれたのが先制ゴールだった。
『DFラインを押し下げる』、『バックパスからのアーリークロス(ファーまで届くのが理想)』、『サイドtoサイドでDFラインを揺さぶる』
この3つを繰り返したことでDFラインは構えて受けることができなくなったように感じる。
似た構図の崩しはシティやリヴァプールも行っている形だ。
ジャカが押し込んだ時にライン間ではなく少し低い位置にいるメリットはこのサイドチェンジがスムーズに行える点だと考えている。
アーセナルのビルドアップ
アーセナルのビルドアップは2-3-5、ユナイテッドの守備は4-4-2のかみ合わせだった。
アーセナル側はこの日はユナイテッドの2トップの守備に対してダブルボランチのジャカとエルネニーのパスを引き出すための動き直しが多いように見えた。
その中でも、エルネニーは2トップの視野の中まで下りてしまうシーンも目立っており、ボール保持を重視する今のアーセナルでの序列低下の理由が見えてくる。
しかし、CBの前ではなく内側に降りる形が多かったこと、ユナイテッドのダブルボランチも前がかりになっていたことで、ホワイトの縦パスが通しやすい配置になっていたようにも見える。
また、エルネニー自身のポジショニングも以前より改善されていることや、前を向いてからの縦パスも通せていたこと、そしてなによりも敵陣でのリカバリーでは素晴らしいプレーを見せていた。
ホワイトの縦パスの恩恵を受けていたのはエンケティアだ。
FW、MFの2ラインをまとめて超える縦パスや、ダブルボランチの間や脇に顔を出してFWのラインを越す縦パスをエンケティアが受けてサイドに展開したり、レイオフで前向きで受けられる選手に預けるシーンもあり、ボールの収まりの良さ、レイオフの質においてエンケティアはかなり向上していた。
タヴァレスは要求される約束事が多い低い位置での役割から解放されて高い位置の幅取り役になったことで、前節から引き続きプレーは良かった。
その一方でポジショニングが高すぎることでガブリエウからのパスコースが消えているという問題点もある。
それを埋めるためにスミスロウが降りてきて経由地点にならざるを得ないシーンなどがあった。
しかし、高い位置から裏を狙う意識は評価できるし、先制点につながった一連のプレーのスタートも裏を狙うタヴァレス目掛けた展開からだったし、相手のDFラインを押し下げる上で一定の効力があったと言える。
ただ、あの位置だと有効な選択肢が裏しかない上に、裏へのロングフィードは難易度が高い上に最初からマークにつかれた状態でパスを受けることになる。
右サイドではサカがホワイトからのパスを受けられる位置にいることが多かったこともあり、崩しの起点になる頻度が高かった。
左サイドでもタヴァレスがこの位置を取れれば、足元で受けて前を向くことも可能になり、選択肢が増えタヴァレスのドリブルや長い距離のキックも活かせることになる。
アーセナルの守備
アーセナルの前から行く守備の狙いは一貫してサイドに追い出すことだった。
ビルドアップをちゃんとやってくるシティのようなチームの場合、同サイドで詰まった場合は仕切り直して逆サイドに振り直すことが多いが、ユナイテッドは同サイドで強引に完結させようとする印象がある。
なので、ウーデゴールやエンケティアはCBに対して内から外に追いやるようなプレスのかけ方をしてSBにパスを出すように誘導、パスを出せばWGがSBにプレスに行き、ここで奪えればベスト、奪えなくても出し先はSBがマークについているWGのみという形だ。
内に通そうとすればボランチやプレスバックに来るウーデゴール、そして前に出るCB陣でも回収可能という構えで、特にこの役割をエルネニーが頑張っていた。
チームのプレスとしてはかなり機能していたが、ユナイテッドが付け入るスキがあったのはSBとWGのマッチアップの局面とロナウドを起点にしたプレーだ。
セドリックがサンチョとのマッチアップで後手を踏むことはある程度想定していたが、それでも手玉に取られていた印象だった。
タヴァレスのところは、ロナウドが内側でガブリエウがついてこれない絶妙な位置で起点になり、そこからタヴァレスの裏をエランガが突く形から決定機を作られていた。
そして、この試合でもロナウドは当たり前のように異彩を放っていた。
起点になるポストプレーからフィニッシュワークまでとにかく際立っていた。
左右どちらのサイドでもロナウドを起点にした縦に速い崩しは決定機まで持って行けていたし、フィニッシュも1点取ったシーンではガブリエウがマークについていたが一瞬背中に回られたところからやられている。
あのプレーを見せられたら口が裂けても『ロナウドが衰えた』なんて言えるわけがない。
だヴァレスがCKでハンドからのPK献上もブルーノ・フェルナンデスのPKは失敗、その後のロナウドのゴールはオフサイドで取り消しながらも苦しい時間が続いたアーセナルはエルネニーのリカバリーからジャカ砲がさく裂し3-1とリードを2点際に広げた後にホールディングを投入して5-4-1で固める逃げ切り態勢に。
対するユナイテッドはエランガとマティッチを下げてリンガードとラッシュフォードを投入、サンチョが右に行きブルーノが1列下がって4-4-2の形に変更。
アーセナルは低い位置でユナイテッドの攻撃を跳ね返して勝利した。
PK献上から明らかにプレーがおかしくなっていたタヴァレスもWBになったことで落ち着きを取り戻したか、幾分かマシになっていた。
理詰めで崩す手段を有していないユナイテッドにとってこの5-4-1は天敵ともいえるシステムだった。
おわりに
そして、この試合で対に冨安が復帰を果たした。
出場は数分だったが、万全をアピールするのには十分なものを見せてくれた。
エルネニー、エンケティアはこの2試合でかなりの成長を見せた。
特に、エンケティアはチェルシー戦も動きは良かったしゴールも決めたが、ポストプレーの不安定さやリードしている時のプレスの緩さが目についたが、ユナイテッド戦ではそれも改善しているように感じた。
一方、タヴァレスは良さを出した一方で課題もかなり露呈した。
プレーの不安定さもそうだが、メンタル的な不安定さも感じるし、何よりもSBの選手じゃないなと。
とはいえ、悪い選手では無いので何とかしていかせる方法を見つけて欲しいものだ…
この試合、エミレーツスタジアムのファンはリヴァプールと同様に7分にロナウドに向けてエールを込めた拍手を送った。
こういった試合とは関係ない所での敵味方関係ない一体感は温かくて好きだなと感じる。
パレス、ブライトン、セインツに悪夢のような3連敗を喫してからチェルシー、ユナイテッド相手に2連勝、その間にスパーズが取りこぼしたこともあり再び4位に浮上することに成功した。
ウェストハム、リーズとの試合を挟み4位争いの行方はノースロンドンダービーに左右されるだろう。
この3試合を3連勝で終え、その後のニューカッスル、エヴァートンにもきっちり勝ってCLの舞台に返り咲いてほしいものだ。
エジルに見惚れてグーナーになった人。18/19シーズンから戦術ブログを開設してリーグ戦全試合のマッチレビューを投稿している戦術系グーナーです。