アーセナル21/22シーズン総括【後編】「最先端に追いつきたい」
前編はこちらから↓
前編ではシーズン通してのおさらいをしてきた。
そして、この後編では今シーズンのアーセナルの戦術について掘り下げていこうと思う。
このサイト的にはこちらが本職だ。
今シーズンのスカッドについて振り返ってからビルドアップ、守備の基本の形について振り返って今シーズンの振り返りを締めたいと思う。
もくじ
21/22シーズンスカッド
冬の移籍市場で6人の選手がローン、完全移籍、契約解除と何らかの形でアーセナルを去った。
その上で冬の移籍市場で1人も取らなかったことでスリムなスカッドにはなったがシーズン終盤の負傷者に対応できず勝ち点を取りこぼしCL圏を逃すことになったが、この冬退団選手をだれか残していたらその事態は避けられただろうかと聞かれたら No と言わざるを得ない。
冬に退団した選手は誰も彼もがプレーでアルテタを納得させることができずにアルテタの構想から外れていった選手だったため、仮にチームに残っていたとしても後半戦で出番が訪れることはまずなかっただろう。
ある意味例外と言えるのはオーバメヤンだ。
ノースロンドン・ダービーで見事なパフォーマンスを披露したものの、その後はパフォーマンスが低下、さらには度重なる規律違反によりチームから外され、冬に双方合意の契約解除で退団、その後のバルサ加入後の活躍は皆の知るところだろう。
実力はあったが、アルテタは規律を重んじ、「規律違反したけど実力があるから使う」ということは絶対にしない監督なので、オーバメヤンも仮に後半戦にチームにいたとしてもピッチに立つ機会は訪れなかったと思う。
残ったメンバーに目を向けよう。
今シーズン、控え不在だったガブリエウとウーデゴールが年間を通してほとんど離脱することなく戦い抜けたことはアーセナルにとって救いだった。
両者ともに代えが効かない選手だったので、彼らまで離脱していたらと思うと目も当てられない。
同じように代えの利かない役割を担っていたティアニー、トーマス、冨安の離脱期間が長く、控えから出てきた選手たちもその穴を埋めるパフォーマンスとは言い切れないクオリティだった。
しかし、その中でも後半戦のほとんどで冨安の代役を務めたセドリックとシーズン終盤ロコンガに代わってトーマスの代役を務めたエルネニーのクオリティは評価したい。
控えでも腐ることなく練習に励み、試合に出れば彼らなりにできることをやり、部分的にでもしっかりと穴を埋める働きができたこの2人のプロフェッショナルは称賛に値する。
とりわけ、エルネニーはその姿勢だけでなく、プレーの内容でも大きな成長を見せて自身のパフォーマンスで見事に契約延長を勝ち取ったのだ。
その一方で、左WGではマルティネッリとスミスロウの熾烈なポジション争いがあり、スミスロウは後半戦は慢性的な負傷の影響でコンディションを落としていたが、それでもシーズン10ゴールを記録、マルティネッリも6ゴール6アシスト、数字以外でもアーセナルの攻撃をサカとの両WGでけん引していた。
左WGだけはレギュラーとして出られるレベルの選手が2人いて、ポジション争いをすることができたポジションだった。
理想は全ポジションで左WGと同じようにレギュラーレベルの選手が2人いることだ。
アーセナルの攻撃の型
シーズン序盤はサカを左に置く迷走があったり、トーマスとジャカがビルドアップ時に横並びになる3-2-5のビルドアップの時期もあったが、16節のサウサンプトン戦でジャカがノースロンドン・ダービーでの負傷離脱から復帰してからは一貫して上記の2-3-5ビルドアップの形を採用してシーズンを戦い抜いた。
このビルドアップは両SBが偽SBとして内に絞りトーマスと並ぶ形でビルドアップの起点になりつつ、相手の守備をピン留めすることでCBのキャリーやさらに1列前の選手へのパスコースを作るサポートを行う複雑なタスクが求められる。
結果、両SBが離脱した後半戦、特にティアニーも離脱した4月以降はビルドアップで苦労することが増えた。
また、初期配置は4-2-3-1だが、ボランチのジャカとトップ下のウーデゴールがそれぞれのサイドでIHのように振舞うこともこの配置の特徴で、後方の2-3のビルドアップが詰まると、WGがSBをピン留めしている手前のスペースに降りてきてサイドでボールを受けて起点になる形も用意されており、特に右サイドのウーデゴールはこの形でボールを受けると内側に運びつつサイドチェンジやゴール前への決定的なパスも出せるため、一気に選択肢が増える。
そして、このビルドアップでファイナルサードへの侵入の頻度を決めるのが大外で受けるWGが対面のDFに対して質的優位を取れるかどうかだ。
サカとマルティネッリがそれぞれ突破できれば深くえぐった所からの折り返しや相手を押し下げてからバックパスで戻して間髪入れずにアーリークロスを入れたり、崩しの選択肢が多くなる。
このマッチアップで優位に立てなかった試合で上手く行った試合の記憶がないと言ってもいいくらいだ。
また、CFに要求されるタスクも難解だった。
オーバメヤンもこの役割になじめないまま低調なパフォーマンスからの規律違反でチームを去り、アルテタが期待する役割は文句なしにこなせるもののゴールから遠ざかるラカゼット、彼らに代わりシーズン終盤に再びチームを引き上げたのが当時契約延長交渉もとん挫し夏に退団不可避とみなされていたエンケティアだった。
元からエリア内での嗅覚は評価していたが、そこに安定したポストプレーによるビルドアップへの関与もできるようになったことで、ビルドアップをサポートしつつファイナルサードではエリア内に飛び込めるストライカーの役割をこなし、シーズン終盤にゴール数も荒稼ぎし、契約延長間近のところまで来ている。
リーグ戦の得点数は20/21シーズンの55ゴールから21/22シーズンは61ゴールに増加した。
この数字だけを見ると6ゴールの増加のみに見えるが、ゴール+アシストで二桁ゴールに絡んだ選手を見ると20/21シーズンはラカゼット、オーバメヤン、ペペの3人だけだったのが21/22シーズンはサカ、スミスロウ、マルティネッリ、ウーデゴール、ラカゼットの5人に増加したということで、チーム全体として崩して点を取る仕組みが確立できたということで総得点の増加以上に評価したい。
アーセナルの守備の型
ホワイト、冨安の加入によりティアニー、ガブリエウ、ホワイト、冨安のバックラインはリーグでもトップレベルの機動力と強度を兼ね備えることになった。
アルテタは就任から一貫して前線からのプレスによるボール奪取を志向してきたが、これまではバックラインに不安があったため、前からのプレスに出ても奪いきれないようなことがあったが、今シーズン最も大きいのは冨安の加入によって前線からのプレスで中央からサイドに追い詰めてアバウトに蹴らせるか袋小路のサイドに出させて冨安と相手のWGのマッチアップで奪いきる形を確立できたことが大きい。
左はティアニー、中央はトーマスが回収、アバウトなボールに対してはホワイトが後ろから潰して突っついて回収するかガブリエウが競り合いで勝つかでボール保持に繋げられるようになっている。
前からのプレスはCFとウーデゴールが中央からサイドにはじき出すような追い方をし、サイドではマルティネッリはSBについて行くが、サカはコースカットプレスでSBを抑えながらCBにプレッシャーをかけに行く形だったりと役割に微妙な違いもあった。
シティやリヴァプールも同じように前からのプレスを行うがアルテタアーセナルはマンマーク色の強い前プレスを行うのが特徴的だ。
おわりに
今シーズンのアルテタアーセナルの戦術を攻守それぞれから解説してきた。
惜しくもトップ4フィニッシュを逃すことになったが、目指すサッカーの方向性は間違ってないことはベストメンバーを揃えた時の試合内容と勝ち点が証明している。
今夏の移籍市場で求められるのは今の方向性でレギュラーと控えの格差をなくし、選手層を厚くすることだ。
今噂に上がっている選手を見てもその方向性で動いているのは間違いないだろう。
ということで、シーズンの振り返りはこの辺りで締めさせてもらう。
次回以降の記事は補強についての記事の予定だ。
エジルに見惚れてグーナーになった人。18/19シーズンから戦術ブログを開設してリーグ戦全試合のマッチレビューを投稿している戦術系グーナーです。